なぜこのページを公開するのか

会員以外の方にも、基礎的な知識を

遠赤外線放射による血行促進等を訴求する繊維製品は、家庭用の衣料・寝具から雑品に至るまで広く流通していますが、 その効果の科学的根拠については、業界内でも十分な整理がなされているとは言い難いのが実情です。

当協会は、業界の方々はもちろん、消費者の皆様が製品を正しく理解し、適切に選択できるよう、 現時点で整理されている考え方や、よくある誤解を会員・非会員を問わず広く公開しています。 個別製品の評価・格付けではなく、業界横断的な「共通の物差し」となる知識の共有を目的としています。

遠赤外線放射と
機能性繊維
基礎知識シリーズ
MISCONCEPTIONS

業界でよく見られる誤解

いずれも、当協会の設立趣旨・目的の背景にある課題です。詳しい調査研究や指針づくりの状況は「事業内容」ページでご紹介しています。

誤解 1

FT-IR試験で「分光放射率」が高ければ、遠赤外線効果の証拠になる?

FT-IR(フーリエ変換赤外分光)法による分光放射率の測定値が示されていれば、遠赤外線放射特性が客観的なデータで裏付けられていると考えられがちです。

実際のところ: 繊維は厚み・温度・異方性・吸湿など、測定条件による不確実性を抱えており、積分球を用いてもこれらの多くは解消されません。 また合成繊維はもともと放射率が高いため、添加物質による上乗せを検出すること自体が難しく、分光放射率の数値だけでは生理学的な効果の大小を示すこともできません。

FT-IR法の測定限界を詳しく見る →
誤解 2

「保温効果」と「血行促進効果」は同じもの?

遠赤外線放射をうたう衣料は、すべてに血行促進効果があるかのように受け止められがちです。

実際のところ: 繊維製品が身体を包むことによる単純な保温効果と、遠赤外線放射に固有とされる生理学的作用(血流量の変化等)は、本来区別して測定・評価されるべきものです。 しかし、両者を明確に区別した測定・評価が行われている例は少なく、混同した説明が製品の訴求に用いられる場合も見受けられます。

保温・発熱メカニズムの比較資料を見る →
誤解 3

遠赤外線を当てると水分子の「クラスター」が細かくなる?

遠赤外線を照射すると水分子の集まり(クラスター)が細分化され、体に吸収されやすい「良い水」に変わる、といった説明を見かけることがあります。

実際のところ: 液体中の水分子間の水素結合は、常温・体温でも熱揺らぎによってピコ秒(10-12秒)オーダーで絶えず組み替わっており、特定の「クラスターサイズ」が安定して存在するという前提自体が、NMR分光法等による現代の知見と整合しません。 また、遠赤外線は水によく吸収される波長域ですが、吸収されたエネルギーは同じくピコ秒オーダーで周囲の水素結合網に拡散し、熱として観測されるにすぎず、特定の構造を狙って恒常的に作り出すような相互作用ではありません (参考までに、遠赤外線10μmの光子エネルギーは約12kJ/molであり、水素結合エネルギーの目安とされる約20kJ/molを下回る点も、この帰結と整合します)。 「クラスターが細かい水は体に良い」という説は、科学的根拠を欠く典型例として以前から指摘されてきた考え方であり、当協会としても機能性繊維製品の訴求根拠として用いることは適切でないと考えます。

誤解 4

医療機器の承認がない製品は、効果を謳えないはず?

薬機法上の医療機器としての届出を経ていない製品は、血行促進等の効果を一切表示できないと誤解されることがあります。

実際のところ: 令和4年の厚生労働省通知(薬生監麻発1214第1号)により、着用者自身の体温による血行促進効果(衣類からの遠赤外線の輻射によるものを含む)のみを標榜する場合、その標榜のみで医療機器に該当するとは判断されません。 ただし、疲労回復や筋肉のこりの改善など、血行促進以外の効果をあわせて標榜する場合は、「家庭用遠赤外線血行促進用衣」等の医療機器としての届出が必要です。 同省は、着用により身体が温まり血行が良くなる現象自体は、衣類一般が持つ普遍的な機能の範囲内であるとの見解も示しています。

誤解 5

遠赤外線のエネルギーは計算で求められます。決して魔法のエネルギーではありません。

SNSやTVショッピング等では、街頭で通行人に製品を試してもらい、テープや繊維製品を身につけた瞬間に姿勢・バランス・柔軟性・筋力などが劇的に変化する様子を撮影し、「効果を実感した」という体験として紹介する動画を見かけることがあります。

実際のところ: こうした実演の多くには、力を加える方向をわずかに変える、同じ動作を繰り返すこと自体で生じるストレッチ効果、重心の位置や体の締め方の違い、重さを予期できるかどうかによる身構えの差など、力学的・心理学的に説明できる要因が関与していることが知られています。

遠赤外線は電磁波の一種であり、そのエネルギー量は黒体放射に関する物理法則に基づいて計算で正確に求められる、いわば「ありふれた」熱放射です。 非電離放射線に分類される程度のエネルギー量である以上、こうした実演にみられるような劇的な変化を、遠赤外線という電磁波が特別な(魔法のような)力を発揮した結果として説明することはできません。 個別の体験・実演がどれほど印象的であっても、それは対照群の設定や統計的評価を伴う臨床試験に代わるものではなく、当協会としても製品効果の科学的根拠として扱うことは適切でないと考えます。

誤解 6

「体から出た遠赤外線を繊維が体に戻す」は保温を超える効果?

遠赤外線放射体入り繊維の説明図解には、「体から出た遠赤外線を繊維がキャッチして体に戻す」というエネルギー循環サイクルが描かれることがあります。

実際のところ: 熱力学第二法則により、エネルギー変換の各ステップには不可逆損失(エントロピー生成)が伴うため、損失のない循環は成立しません。 また、体温域(約310K)の物質が放射できるエネルギーには、シュテファン=ボルツマン則による物理的な上限があり、皮膚自身の放射量と同水準です。 外部からの熱源なしに「能動的に体を加温する」ことは、キルヒホッフの法則(放射率=吸収率)からも支持されません。

熱力学的な評価を詳しく見る →
誤解 7

遠赤外線分光放射率の優劣が、製品性能を左右する?

「放射率90%超」といった高い数値が、そのまま人体への熱還元の効率や、他社製品との性能差を示すものとして紹介されることがあります。

実際のところ: ポリエステルなどの一般的な化学繊維は、分子結合の熱振動特性により、何も加工をしなくても約85〜90%前後の高い遠赤外線放射率をもともと持っています。 そのため「90%以上」という数値だけでは、測定条件や比較対象によって、製品間の性能差を示す指標として十分とは言えない場合があります。 また、キルヒホッフの法則(放射率ε=吸収率α)により、放射率が高い繊維は皮膚からの輻射だけでなく周囲環境からの輻射も同程度によく吸収・放出します。 そのため室温等の低温環境では、放射率が高いほど外部への熱損失も大きくなる場合があり、放射率の高さが必ずしも保温性能の高さに直結するとは限りません。

熱力学的な評価を詳しく見る →
誤解 8

この協会に聞けば、どの製品がよいか教えてもらえる?

業界団体に問い合わせれば、おすすめの製品や優れた製品を紹介してもらえると思われることがあります。

実際のところ: 当協会は、特定の会員又は特定の製品の利害を代弁する組織ではありません。個別製品のご紹介・推奨は行わず、 製品を理解し選ぶための一般的な考え方や指針を、中立的な立場から提供しています。

このページの内容について

本ページは、当協会の設立趣旨及び定款に定める目的に基づき、現時点で整理されている考え方をご紹介するものです。 個別の製品の効果を保証又は否定するものではなく、当協会は個別製品の優劣判定・格付け・認証は行いません。 調査研究の進捗に応じて、内容は今後拡充していく予定です。

もっと詳しく知りたい方へ

当協会がこれらの課題にどのように取り組んでいるかは、事業内容ページでご紹介しています。会員としての活動参加もお待ちしております。